学位論文題名
建築設備分野におけるBIMの課題と解決手法に関する研究

三木 秀樹
学位論文要旨

2011年以降、東日本大震災後の復興や国土強靭化、2020年の東京オリンピック開催などを背景として建設需要が増加傾向に転じつつある。しかし、それまでの約20年間、建設需要は減少し続けた。この間、業界全体で技術者及び技能者の育成が停滞したため、現在増加しつつある建設需要に見合う技術者及び技能者の確保が困難な状況となっている。一方、日本の人口はすでに減少に転じ、今後更に加速化が推測されるため、建設需要の増加も一時的なものであるとして捉えられている。従って、業界各社は技術者や技能者の大量採用には至っていない。また、たとえ採用したとしても人材を早期に育成することは容易ではなく、限られた人材による効率的な生産が要求されている。
建設業の生産性を向上させるためには新技術への取り組みが不可欠である。その一つとして2009年頃から注目され始めたBIM (Building Information Modeling)がある。BIM は建築物に関するあらゆる情報を一元化する仕組みであり、建築生産のあり方を一変する可能性を持っている。中でも、BIMが持つ可視性は建築工程における合意形成や干渉確認などを容易にする効果があり、すでに民間のみならず国土交通省も実際のプロジェクトで試行するなど、急速に普及が進みつつある。
併せて、BIMの普及とともに、BIMを構築するために必要な、建築物の情報を定義する仕様であるIFC (Industry Foundation Classes)の利用も進みつつある。そのような定義はIFCに限られるものではないが、IFCはこれまで北米や北欧を中心に多くの国、組織、プロジェクトで採用され、さらに2013年にはISO16739として国際標準化もされるなど、その地位は確固たるものとなりつつある。国土交通省においても2014年に公開した「官庁営繕事業におけるBIMモデルの作成及び利用に関するガイドライン」の中でIFCを採用するに至っている。
今後、BIMへの取り組みは一層拡大するものと見られているが、BIMへの取り組みは始まったばかりであるため、解決しなければならない多くの課題が山積している。BIMにおける課題を放置すれば、BIMへの取り組みに混乱を生じ、本来、生産性の向上を期待されるBIMにおいて逆に無駄な作業が多発する可能性が極めて高くなる。その結果、建設業界における生産性向上への大幅な立ち遅れが懸念されるため、BIMの本格的な普及を前に、種々の課題に対する解決手法を構築することが急務であると考える。

本論文は、建築設備のうち、電気設備を除く、空気調和(以降、空調)設備、給排水衛生(以降、衛生)設備におけるBIMの課題を調査するとともに、多くの課題の中から技術的に解決できる課題について解決手法を明らかにした。特に重要度が高いBIMの構築に関する入力の自動化に対して注目し、モデルの定義方法及び定義方法に基づくモデルの生成方法、さらにその自動化手法及び応用例について、IFCの利用を前提とした提案等を行った。
本論文は6章から構成されている。以下に各章の概要を示す。
第1章では、研究の背景として、建設業界の生産性向上の視点から、BIMの導入の必要性と解決すべき課題、並びに研究の目的として、課題の解決手法をあげると共に、本論文の構成を示した。
第2章では、モデルの定義方法を明らかにするために、ダクト部材を例として、IFCの構造やデータ形式を調査すると共に課題を明らかにし、IFCによる形状や属性データの作成方法を明確化した。また、作成されたデータからの属性の取得方法や、一つのクラス(物体の表現方法の仕様)から派生して作成されるクラスの全体像の把握方法を示した。
第3章では、モデルの作成方法を明らかにするために、制気口(空気の吹出口や吸込口の総称)を例として、データ形式、データ量、形状の詳細度、形状の表現方法、属性項目等の仕様を検討・決定する手順を、課題を明らかにすると共に示し、さらに、決定された仕様をもとに、データを容易かつ正確に作成するため手法を開発した。また、面数と属性数からデータ量を推定する手法を示した。
第4章では、第2章及び第3章の応用例として、空調・衛生設備におけるシミュレーションを想定した際の課題を明らかにし、基本設計段階におけるコミュニケーションツールとしての、シミュレーションに必要な形状及び属性を持つ簡易建築モデル作成手法を開発した。
第5章では、同じく応用例として、設備モデルの作成を劇的に省力化しうる自動経路配置手法に注目し、課題を明らかにすると共に、空調・衛生配管の自動経路配置手法及び建築モデルからの計算条件の取得手法を開発した。
第6章では、研究結果を総括し、目的の達成度及び他の課題への波及を確認し、さらに今後の発展性を展望した。