第1章 研究の背景と目的

1.1 建設業界の現状とBIMへの取り組み

2011年、建設業界においては、「建設業投資額は2008年には約40兆円で、ピーク時の1990年の約半分であるのに対して、建設業就労者数は約500万人でピーク時の75%であるため、労働生産性はこの18年間に、0.7倍に減少している。これに対して、製造業は1.76倍、全産業でも1.4倍と増加している。そのため、国際的にも日本の建設業は労働生産性が低く、その改善は早急の課題である。」ことが新聞紙上で報道された1)。これは当時、建設業における生産性が、製造業の40%、全産業の50%にとどまる状況となっていたことへの指摘であった。この傾向は、図1.1及び図1.2によっても確認できる2)。労働生産性は、生産量ではなく生産額を基準とするため、建設需要の減少に伴って誘発された過当競争により建設単価が下落し、この結果として生産額が下落したことも要因の一つではあるが、生産性の向上が課題であることは否定されるものではない。
図1.1 建設投資額の推移2)
図1.2 建設労働者数の推移2)

1) 日刊建設通信新聞社: 建設通信新聞, 2011.2.14
2) (財)建設経済研究所: 建設産業活性化会議「建設業就業者数の将来推計」, 2014.1(一部改変)

2011年以降、東日本大震災後の復興や国土強靭化、2020年の東京オリンピック開催等を背景として建設需要が増加傾向に転じつつあり、現在は、建設業界にも久々の好況感が訪れている。一方、それまでの約20年間、建設需要は減少を続け、業界全体で技術者及び技能者の育成が停滞したため、現在増加しつつある建設需要に見合う技術者及び技能者の確保が困難な状況となっている。この傾向は、図1.3によっても確認できる2)。他方、日本の人口は既に減少に転じ、今後は更に加速化が推測されるため、建設需要の増加も一時的なものに過ぎないと捉えられている。従って、業界各社は技術者や技能者の大量採用には至っていないことが実情である。また、たとえ採用したとしても人材を早期に育成することは容易ではなく。その結果として、ここでも、限られた人材による効率的な生産、即ち生産性の向上が課題となる。
図1.3 建設労働者の過不足状況2)
建設業の生産性を向上させるためには新技術への取り組みが不可欠である。その一つとして2009年頃から注目され始めたBIM注1)は、建築物に関するあらゆる情報を一元化する仕組みであり、建築生産のあり方を一変する可能性を備えている。中でも、BIMが持つ可視性は建築工程における合意形成や干渉確認等を容易にする効果があることが認識され、既に民間のみならず国土交通省においても実際のプロジェクトで試行される等、急速にその普及が進みつつある3)4)。

注1) Building Information Model または Modeling
3) 藤咲雅巳: いまBIMのメリットが最も発揮できる設備設計, ArchiFuture2011セミナー, 2011.10
4) 日刊建設通信新聞社: セミナー「国交省BIMのインパクト」, 2013.5

今後、BIMへの取り組みは一層拡大するものと推測されるが、BIMへの取り組みは始まったばかりであり、未だ試行錯誤の段階にある。

1.2 BIMとIFC

(1) BIM
BIMは一般にはBuilding Information ModelまたはModelingの略称であるが、一部にはMにManagementを含めるべきとの意見もある。また、BIMに代えて、バーチャルビルディングやプレコンストラクション、デジタルモックアップ、土木分野ではCIM、即ちConstruction Information Modelingという言葉も使用されている。さらに、我が国でBIMという言葉が広く使用され始めた2009年頃以前には、例えば、建物3次元プロセスモデル等という言葉も使用されていた。いろいろな言葉の違いはあっても、意図するところはほぼ共通している。
ASHRAE 注2)によると、BIM は「施設の物理的、機能的特性のデジタルな表現であり、施設情報の知識資源として共有され、施設のライフサイクルを通して、意思決定のための信頼性の基盤を形成するもの」と定義されている5)。

注2) American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning Engineers (米国暖房冷凍空調学会)
5) ASHRAE BIM Steering Committee (BM運営委員会): An Introduction To Building Information Modeling (BIM), 2009.10

より具体的には、BIMは3次元形状と属性を表現し、これらの情報は意匠・構造・設備等の異なる専門分野、及び施工者・発注者・利用者等の異なる立場において、建物の企画・設計・施工・維持管理に渡る時間的な進行段階での共通の情報として扱われるものと言える。設計や維持管理などでは3次元形状は必須でない場合もあるが、本研究では3次元形状を前提とする。
さらに、BIMの概念を樹木に模して表現したものを図1.4に示す6)。図において、意匠・構造・設備等の個々のモデルは根を、これらをまとめた統合BIMは幹を、統合BIMを利用するプレゼンテーションや解析等の各アプリケーションは葉を、それぞれ構成している。図によって、統合BIMを中核とするBIMの全体像を具体的に理解することが可能である。
図1.4 BIM tree6)

6) 伊藤久晴: RUGによるBIM実証実験としてのBLT, (社)IAI日本, Build Live Tokyo 2009作品集, pp.5-6, 2010.2

そもそも、建築物は一品生産・現場生産であるため、製造業のように事前に何度も試作品を作ることにより製品の精度や生産工程の効率を上げることができなかった。しかし、情報技術の進歩によって、BIM、即ち仮想的な建築物の試作品の作成が可能になった。BIM により、建築物に関するあらゆる情報が一元化され、整合性・可視性・利用性等が高まる。BIMを用いて、製造業と同様に試作を繰り返せば、かつてないほどに製品の精度や生産工程の効率を上げることが期待でき、結果として建築生産(設計・施工)及び維持管理における品質の向上、工期の短縮、費用の低減等の効果が期待できる。
例えば、現在、BIMは主に施工段階における干渉確認に利用されている。その理由は、施工前に干渉を発見して対策を講じることにより、手戻り工事を減らすためである。手戻りがあると、撤去・再施工が必要となるため、部分的には仕事量が本来の2〜3倍になり、それに要する費用や時間が増加する。手戻り工事の費用は、複雑な設備工事の場合には、全体の30%に達するとの報告もある7)。さらに、手戻りにより廃棄物が発生すれば、環境負荷や処理費用も増加する。設備工事業界全体では、まさに膨大な損失である。

7) 谷内秀敬: 現場で喜ばれる設備BIMのマネジメント手法, ArchiFuture2014セミナー, 2014.10

なお、干渉確認はBIMが登場する以前からも行われ、それには総合図(意匠・構造・設備が統合された図面)が利用されてきた8)。総合図は1990年頃から普及し、長年利用されてきたものであるため、総合図でも足りると言えば足りる。しかし、2次元の図面である総合図と3次元のBIMでは、可視性、即ち「見える化」の度合いにおいて圧倒的な差がある。例えば、機械室内の空調機器及びダクト・配管等の表現において、図1. 5及び図1. 6のような2次元の表示(平面図と立面図)と図1.7のような3次元の表示(鳥瞰図)を比較すれば、一目瞭然である。

8) 岡正樹: 建築設計図の品質向上策と総合図作成実務からみたCAD活用の可能性, 建設業情報システム研究会講演予稿集, 第22巻, pp.57-73, 1994.2

図1.5 2次元の表示(平面図)
図1.6 2次元の表示(立面図)
図1.7 3次元の表示(鳥瞰図)
2次元の図面は訓練を積んだ技術者や技能者しか理解できないが、3次元のBIMは初心者の技術者や技能者はもとより、図面をほとんど見る機会のない発注側の管理者あるいは利用者にも理解できる。また、図面を十分に理解できる技術者にとっても、全体的な疎密感の把握、斜材の把握、鉛直方向の確認等においては、3次元のBIMの方が有利である。そもそも、人は3次元空間で生活しているため、3次元形状の方が理解し易いのは当然と言える。特に、BIMを採用するかどうかの決定権は発注者にあるため、理解の容易な3次元のBIMが求められる流れは、前進することはあっても後退することは考えられない。
なお、干渉確認は、属性の要否という観点から、BIMではなく3次元CADの活用に過ぎないという意見もある。たしかに、干渉確認自体には部材の3次元形状があれば十分である。しかし、干渉確認を効率的に行うには、条件を設定したり結果を判定したりする際に、部材を機械的に識別することが必要であり、そのためには、例えば、部材の名称あるいは記号といった属性が必要である。そのため、干渉確認は、やはりBIMの活用と考えるのが自然である。その裏付けとして、実際、BIMの用途として、干渉確認には「Coordination View(調整用途)」という位置付けが与えられている。
将来、BIMは干渉確認以外にも、多方面で利用されるようになると考えられる。その一つは、例えば、機械化施工への利用である。製造業においては、生産性の向上を図るため従前よりロボット化が進められてきた。しかし、建設業では、ロボット化への取り組みはほとんど進んでいない。この理由は、製造ラインのように局所での生産が可能な製造業と異なり、建設業は広範囲な施工場所での生産が要求されるためである。言い換えれば、建設業でロボット化を進めるためには、人と同程度に移動が可能なロボットが必要となる。そのようなロボットが実現されるのは遠い将来と思われていたが、2011年に発生した東日本大震災による福島原子力発電所の事故対応において、人が立ち入れないような強い放射線の環境下でも作業を行う必要性が生まれたことにより、実現が早まる可能性がでてきた。そのようなロボットとBIMデータが連携すれば、生産性の革新的な向上が期待できる。建築ほど精度が求められない土木分野では、既にCIMデータを用いて自律型重機を制御し、整地作業の無人化が試行されている9)。この自律型重機の開発が1991年に発生した雲仙普賢岳の噴火による復旧を契機として進んだことも併せて考えれば、そう遠くない将来に、建築でも実現すると考えるのは、それほど突飛ではない。

9) 森川 博邦: 建設ロボット技術に関する国土交通省における取り組み, 建設マネジメント技術, pp.12-17, 2013.6

他には、例えば、維持管理への利用である。BIMと維持管理ソフトを連携することにより、建築物の竣工時に、BIMに入力された建築及び設備部材の情報を、維持管理ソフトに流用することができる。建築物は多くの建築及び設備部材から構成されるため、情報を流用できれば、入力の手間や間違いを大きく減らすことができる。ただし、生産段階で入力される情報は、あくまでも生産に必要な情報であり、維持管理段階で必要な情報とは必ずしも一致しない。そのため、情報の効率的な利用のためには、生産と維持管理の情報の差異、差異を埋めるための負荷、負荷をまかなうための費用等を明確にする必要がある。維持管理ソフト以外の、例えば、自動制御システム(BAS: Building Automation System)やエネルギ管理システム(BEMS: Building Energy Management System)等を連携する場合も、同様の効果と課題がある。また、竣工時にBIMの情報を流用するだけではなく、維持管理時にこれらのソフトが生成する情報の一部または全部をBIMに保管することも考えられる。情報に関連性があれば、BIMを介して個々のソフトが相互に連携できるため、発展性が生じる。なお、維持管理時に生じる建築及び設備部材の変更は、BIMに逐次反映されることが望まれる。これにより、建築物の最新の情報が把握でき、例えば、将来の改修時に、多大な人手を要する現状調査を大幅に簡素化できる。
他には、例えば、設計への利用である。3次元形状の表現は、客先へのプレゼンテーションに効果的である。しかし、設計で入力される3次元形状は十分な精度を持たないため、後工程である施工段階への効果は限定的である。むしろ、設備設計においては、システムの表現が重要である。システムを表現する場合、3次元形状や位置にはあまり意味がない。意味があるのは、設計の条件である自然環境や法律・基準、設計の結果である設備要素の仕様や要素間の接続関係である。これらは属性として表現される。システムが表現されることにより、機器配置や経路配置につながり、さらには品質・環境・費用・工期等の精度の高いシミュレーションにつながる。結果として、設計に起因する手戻りが減る。

(2) IFC
このようなBIMの機能を構築するためには、建築物のモデルをオブジェクト(要素)レベルで定義する仕様(構造及びデータ形式)が必要である。
その仕様は、標準的なものであることが望ましい。その理由は、BIMにおいては多くのソフトによりデータの交換・共有が行われるが、各ソフトはその仕様のみを実装するだけでデータの交換・共有を行えるためである。また、その仕様は特定のソフトベンダーに依存しないものが望ましい。その理由は、特定のソフトベンダーの意思による改変や情報提供の制約がなされないためである。また、例えば、竣工から数年以上が経過した後にデータが必要になった際に、ソフトベンダーが当該仕様のデータをサポートしているかどうかも不透明であるためである。
そのようなBIMにおける標準仕様の一つとして、IFC注3)の利用が進みつつある。

注3) Industry Foundation Classes

IFCはIAI注4)によって策定され、ISO10303s注5)通称STEP注6)に準拠し、2005年にはISO/PAS注7)-16739の認証を取得し、海外を中心に多くの国、組織、プロジェクトで採用されてきた10)。そして、2013年3月に正式にISO/IS注8)16739として国際標準化され、BIMにおける標準形式としての地位をより強化した。これにより、今後IFCはBIMにおける標準形式として今まで以上に利用されることが予想される。

注4) International Alliance for Interoperability, 現buildingSMART International
注5) Industrial automation systems and integration Product data representation and exchange (産業用オートメーションシステム及びその結合−製品データの表現及び交換)、-sはseries、即ち複数の規格群であることを示す。
注6) Standard for Exchange of Product Model Data
注7) Publicly Available Specification
10) 足達嘉信: 各国のBIM事例・BIMガイドラインとBIM活用実態調査レポートから学ぶBIM最新活用事情, (社)IAI日本, 2011年度セミナー, 2011.6
注8) International Standard

実質的にも、IFCは既にアメリカ、デンマーク、フィンランド、ノルウェー等で公共建築工事の発注において採用され、国内でも国土交通省が2014年3月に公開した「官庁営繕事業におけるBIMモデルの作成及び利用に関するガイドライン(略称BIMガイドライン)」で採用されるに至っている11)。

11) 足達嘉信, BIMを実現する標準データモデルIFC及びその国際的な活用動向, (財)建築コスト管理システム研究所, 建築コスト研究, 17(2), pp..5-17, 2009.4

BIMにおける仕様としてDXF注9)・DWG注10)・RFA注11)等も有力であるが、これらは特定のソフトベンダーに依存していることから、本研究ではIFCを選択した。

注9) Drawing eXchange Format, Autodesk社が定義するテキスト形式のデータ形式
注10) DraWinG Format, Autodesk社が定義するバイナリ形式のデータ形式
注11) Revit Family file, Autodesk社が定義するバイナリ形式のデータ形式

なお、IFCの定義の詳細は、第2章で述べる。

1.3 BIMの課題

BIMには大きな期待が持たれているが、BIMへの取り組みは始まったばかりであるため、課題も多い。そこで筆者らは、空気調和(以降、空調)・給排水衛生(以降、衛生)設備業界におけるBIMの課題を聞き取りにより調査した。これを下記に示す12)。

12) 三木秀樹, 川合潔, 中野孝之, 吉田広章, 渡邉秀夫ほか: 設備技術者のためのBIMガイド, NPO設備システム研究会, 2014.6

(1) 全般
BIMに対する基礎的な理解が関係者に足りない場合がある。
BIM自体が成果品として認められていないため、BIMの構築に要する費用を負担するルールが明確でない。
BIMに何をどこまで作り込むかの基準がない。
部材の3次元形状と属性情報が十分に整備されていないため、これらの入力作業から始める必要がある。
入力作業に、より多くの費用や時間がかかる。また、その見積りが難しい。
入力作業をできる人が限られる。
計者が必ずしも入力者ではないため、設計変更がすぐにデータに反映されない。
入力作業には欠落、重複、誤認等が起こる。また、個人の技量の差によって出来栄えに差が生じる。その結果、データを利用する際には確認が必要になる。
属性については目視確認が難しい。
ソフトごとにデータの出し方・読み方が多様なため、それを交換することが難しい。
データ交換の標準を作るには労力と時間がかかる。また、作業が地味であるため、協力者が集まりにくい。
通り芯が出力されない場合がある。
重ね合わせの際に原点がずれることがある。
階の概念が従来と異なり、床・柱・梁・壁等が想定通り含まれない場合がある。
BIMのデータ量が過大になり易く、扱いが難しい。高性能なハードが必要になることが多い。
注記や寸法の文字が受け渡せないため、梁背や天井高が分からない。そのため、2次元の図面を別途作成し、それを都度シンクロ(同期)させる必要がある。
BIMのデータはそのままでは作業指示に使えない。別途、図面が必要になる。
BIMのデータから図面を生成する技術が確立されていない。

(2) 空調・衛生設備関連
設備に必要のない建築のデータ(例えば、植栽、什器、鉄骨のボルトナット等)が過大に含まれる場合、読み込めないことがある。
設備に必要のない建築のデータを設備側では削除できない。
建築側にいわゆる「見上げ(基準とする水平面より上部側を見ること))」「見下げ(同じく下部側を見ること)」の概念がなく、適切なデータを得られない。
設備に必要なデータが含まれない。あるいは含まれていても、意味や精度が異なるためそのまま利用できない。
建築データの中の特殊な形状、複雑な形状は読めないことがある。
建築データの差し替えが簡単にできない。
3次元で勾配管を正しく描くことが難しい。
見栄えが以前よりも問題にされる。
BIMにおけるこれらの課題を放置すれば、BIMへの取り組みに混乱が生じ、本来、生産性の向上を期待されるBIMにおいて逆に無駄な作業が多発する可能性が極めて高くなる。そうなれば、反動でBIM否定論が増え、結果として建設業界の生産性の向上が大幅に立ち遅れることが懸念される。実際、新聞やセミナー等では成功した事例が多く発表されているが、実務では途中で失敗する事例は極めて多いとされる。このような事象は1995年頃から空調・衛生設備業界で行われたCAD注12)の導入時にも経験されたことである。そのため、BIMの本格的な普及を前に、これらの課題に対する解決手法を構築することが急務であると考える。

1.4 研究目的と研究内容

1.3に示した課題は、技術的に解決できないものと、技術的に解決できるものに大別されるが、前者については、情報の提供や運用基準の整備、教育等による対応を図り、後者については、技術的な対応を図るべきと考えられる。本研究では、このうちの技術的に解決できる課題への対応について述べる。
技術的に解決できる課題の中で、特に重要度の高いものとして、BIMの構築における入力に関わるものが挙げられる。これは、BIMに限らず、コンピュータ利用全般における課題でもあるが、BIMにおいては、特に重要度が高い。その理由は、BIMには、Front Loading(前倒し)、即ち図1.8に示すように、仕事を前工程と後工程に分けた場合、前工程の仕事量を多少増やしても後工程の仕事量をそれ以上に減らすことにより、全体としての仕事量を減らす、という考え方があり、これが、BIMが成立するための条件とされているためである。前工程でBIMを構築し、後工程でBIMを利用すると考えれば、入力を早く正確に行うことの重要度が理解される。
図1.8 フロントローディング
また、図1.4には含まれていないが、BIMを積算に利用することも考えられる。実際に、CADの導入時には、積算への利用が検討されていた。積算に必要な部材の数量や仕様を人が図面から取得するのは煩雑であり、また、間違うおそれもあるため、できればBIMから直接取得できることが望ましい。しかし、現在は、積算のためだけにBIMを構築するのは一般的でない。その理由は、BIMを構築するために増える労力よりも、積算で減らすことができる労力が十分に大きいとはみられないためである。もし、積算後に受注できれば、BIMは施工にも利用できるため、全体として労力を減らすことは難しくはないとみられる。しかし、失注すれば、労力が無駄になってしまうおそれが極めて強い。そのため、積算への利用を考えれば、BIMの構築に必要な労力を極力減らすことが重要になる。
入力に関わる課題を解決する一つの方法として、特に費用については、先進国である日本に比べて人件費が安価な新興国や中進国で作業を行うことが考えられる。実際、中国やベトナム、フィリピン等でこうした作業が行われている。しかし、これらの国々の人件費が上昇すれば、この方法は成り立たなくなる。また、この方法は日本国内では競争力になりうるが、国際的には競争力にならない。
より持続的で、かつ国際的にも競争力になりうる方法の実現が期待される。その一つとして、入力における自動化、即ちソフトによる支援を進めることが考えられる。これが実現すれば、BIMの普及が早まり、また、利用範囲も大きく広がる。そのために、本研究では、下の二点を明らかにした上で、具体的な自動化の手法を提案することを目的とする。
1) モデルの定義方法
2) 定義方法に基づくモデルの作成方法
なお、本研究の対象は建築設備のうち、電気設備を除く、空調・衛生設備とする。電気設備は含まれないが、空調・衛生設備における検討は、機器を経路で結ぶ類似性を持つ電気設備にも応用できる。
また、BIMのモデルを表現する定義として、IFCを利用する。なお、原則として、IFCの版は2x3(ツーエックススリー、正式には2x Edition 3)とする。2014年11月現在のIFCの最新版は2x3の次版である4であるが、公開から日が浅いため広く普及するには至っておらず、現状では2x3が広く使用されている。

1.5 本論文の構成

本論文は6章から構成されている。以下に各章の概要を示す。
第1章では、研究の背景として、建設業界の生産性向上の視点から、BIMの導入の必要性と解決すべき課題、並びに研究の目的として、課題の解決手法をあげると共に、本論文の構成を示した。
第2章では、モデルの定義方法を明らかにするために、ダクト部材を例として、IFCの構造やデータ形式を調査すると共に課題を明らかにし、IFCによる形状や属性データの作成方法を明確化した。また、作成されたデータからの属性の取得方法や、一つのクラス(物体の表現方法の仕様)から派生して作成されるクラスの全体像の把握方法を示した。
第3章では、モデルの作成方法を明らかにするために、制気口(空気の吹出口や吸込口の総称)を例として、データ形式、データ量、形状の詳細度、形状の表現方法、属性項目等の仕様を検討・決定する手順を、課題を明らかにすると共に示し、さらに、決定された仕様をもとに、データを容易かつ正確に作成するため手法を開発した。また、面数と属性数からデータ量を推定する手法を示した。
第4章では、第2章及び第3章の応用例として、空調・衛生設備におけるシミュレーションを想定した際の課題を明らかにし、基本設計段階におけるコミュニケーションツールとしての、シミュレーションに必要な形状及び属性を持つ簡易建築モデル作成手法を開発した。
第5章では、同じく応用例として、設備モデルの作成を劇的に省力化しうる自動経路配置手法に注目し、課題を明らかにすると共に、空調・衛生配管の自動経路配置手法及び建築モデルからの計算条件の取得手法を開発した。
第6章では、研究結果を総括し、目的の達成度及び他の課題への波及を確認し、さらに今後の発展性を展望した。
本論文構成の関連を表1.1に示す。
表1.1 各章の関連
  背景と目的  モデルの定義
方法の明確化
モデルの作成
方法の明確化
具体的な自動
化手法の提案
総括    
第1章        
第2章        
第3章      
第4章        
第5章        
第6章        
また、第2章から第5章で対象として取り上げた部材を表1.2に示す。
表1.2 各章で対象とした部材
  建築設備部材 建築部材 
経路部材 機器部材 
ダクト部材 配管部材 
第2章      
第3章      
第4章      
第5章