第3章 空調設備分野における3次元部材データ作成手法の開発

3.1 はじめに

BIMは建築工程における合意形成や干渉確認等を容易にする効果があるとされ、普及が進みつつある。しかし、BIMがさらに普及するには解決すべき課題が多くあるとされ、例えば、3次元形状と属性を持つ、いわゆる3次元部材データの作成に関して、下記のような課題がある。
BIMに何をどこまで作り込むかの基準がない。
部材の3次元形状と属性情報が十分に整備されていないため、これらの入力作業から始める必要がある。
建築設備分野においても、設備機器メーカー(以降、メーカー)によるデータの提供が期待されているが、未だ特定現場等への部分的な対応にとどまっている1)。この原因には、
メーカーがデータの仕様、即ち形状の詳細度・属性項目・ファイル形式・データ量等をユーザーから明確に提示されていないこと
メーカーは製造用の3次元部材データを持ってはいるが、機密保持上、その提供には慎重であること
メーカーが製造用の3次元部材データを提供できたとしても、そのデータはビスやビス穴等も表現した精細なものであるためデータ量が数MBにも達してBIMでの利用には難があること
BIMで利用しやすい、データ量が少ないデータを作成するには、メーカーは製造用の3次元部材データを改変し、あるいは新たにデータを作成しなければならないため負荷が大きいこと
メーカーがユーザーに対するデータの提供の費用対効果、即ち負荷に見合う顧客満足度や売上の向上を明確に予想できないこと
等が挙げられる。

1) (財)建設業振興基金 建設産業情報化推進センター: 運営委員会活動報告, 平成23年度 財団法人 建設業振興基金 建設産業情報化推進センター 設計製造情報化評議会 活動報告書, pp.3-9, 2012.3

また、これらが解決されたとしても、規模の小さいメーカーが規模の大きいメーカーと同様にデータを提供できるかどうかや、設計業務で求められるようなメーカーを特定しないデータをメーカーが提供できるかどうかも不透明である。
そのため、3次元CADソフトベンダーは自ら3次元部材を登録し、あるいはユーザーが3次元部材を登録できる機能を提供しているが、これらのデータの広範な流通を意図しているわけではない。
そこで筆者らは、メーカーによるデータの提供を促進するため、空調設備で使用される制気口(空気の吹出口や吸込口の総称)を対象として、3次元部材データの作成手法を開発した2)。本章ではその結果を述べる。

2) 三木秀樹, 一ノ瀬雅之, 須永修通, 中野民雄, 市川憲良: 空調設備分野における3次元部材データ作成の試行, 日本建築学会技術報告集, 第20巻, 第46号, pp.1125-1130, 2014.10

3.2 建築設備分野における既往の研究

C-CADECは、メーカーによるデータの提供を目的として、Stemにおいて空調・衛生・電気設備の主要な機器部材が持つべき形状と属性のデータを定義している。一部のメーカー(事実上エアコンメーカーに限られる)が、Stemに基づき、データを提供している。しかし、Stemにおける形状の定義は2次元であるため、C-CADECは、新たに3次元の定義を追加し、メーカーに対してデータの提供を働きかけているが、未だ実現できていない。なお、C-CADECは、エアコンのように設置台数が多い機器部材のデータ量について、概ね50KB注1)程度、最大100KB以下を推奨している3)。

注1) K(=1024) Byte、k(=1000)と区別するため大文字が使用される。
3) (財)建設業振興基金 建設産業情報化推進センター: 空衛設備EC推進委員会 活動報告, 平成24年度 財団法人 建設業振興基金 建設産業情報化推進センター 設計製造情報化評議会 活動報告書, pp.33-47, 2013.3

また、C-CADECは、BE-Bridgeにおいて、経路部材、即ち配管や弁、ダクト、ダンパー等が持つべき形状と属性のデータを定義している。主要な設備CADソフトが、BE-Bridgeに基づき、データの入出力機能を実装している。近年、BE-Bridgeには、経路部材のほか、Stemの対象とされるような比較的大型の機器部材や、より小型の制気口部材が追加されている。しかし、設備CADソフトの対応は経路部材ほどには進んでいない。なお、BE-Bridgeでは、形状を表現するための具体的な寸法パラメータが定義されるのが通例であるが、機器部材についてはStemを流用することとして、定義されていない。
(社)日本建設業連合会 生産委員会 設備部会 設備情報化専門部会は、空調・衛生・電気設備の主要な機器について、基本設計・実施設計・施工のフェーズ毎に、建設業者がBIMで必要とする形状を検討している4)。大まかな方向性は示されているが、形状を表現するための具体的な寸法パラメータは定義されていない。

4) (社)日本建設業連合会 生産委員会 設備部会 設備情報化専門部会: 設備機器における BIM モデル開発状況と今後の展望に関する調査検討 2012(平成24)年度活動報告書, pp.U-1-41,2013.2

(社)空気調和・衛生工学会のBIM・CFDパーツ化小委員会は、BIMと空調熱負荷計算及び気流計算(CFD)との連携を検討しており、それに関連して、気流計算で利用する境界条件、即ち気流の風速や風向を含む部材データの仕様を定義し、エアコンメーカーや制気口メーカーに対してデータの提供を働きかけている5)。しかし、一部のエアコンメーカーの試行的な提供を除けば、未だ実現していない。

5) (社) 空気調和・衛生工学会 換気設備委員会 BIM・CFDパーツ化小委員会: シンポジウム「空調シミュレーションにおけるCFDパーツ利用」, 2013.3

以上のように、3次元部材データについては、仕様がようやく定義され、あるいは定義されつつあるが、メーカーによる提供までには至っていない。

3.3 目的及び方針

メーカーによる3次元部材データの提供を促進するには、データの仕様を明確にし、また、データの作成を簡便にすることが必要と考えられる。そのため、本章では、3次元部材データの作成手法を開発することを目的とし、下記を方針とした。
部材データの仕様を決定する手順を示す。
部材データ作成ソフトを開発する。
3次元部材データ作成手法の開発にあたり、その対象を制気口とした。その理由は、代表的な空調機器部材の一つで使用頻度が高いこと、形状や機能が比較的簡単で取り組みやすいこと、制気口メーカーはエアコンメーカーに比べて規模が小さいためデータの提供に、より慎重であること等である。

3.4 3次元部材データの作成手法に関する課題及び開発

3.4.1 仕様の決定
(1) データ形式
データ形式はIFCとする。ただし、メーカーによっては、IFCではなくDWG・DXF・RFA等を希望する場合もありうる。その理由は、不特定多数のユーザーを対象とした場合、IFCよりも流通性が高いことを優先するかもしれないためである。ただし、IFCでなくても、本章で示す手法は応用できる。

(2) データ量
データ量は形状の詳細度や属性数に依存するため、一概には決められないが、本章ではデータ量を優先し、その範囲内で詳細度や属性数を決定することとした。
データ量の目安は、メーカーへの聞き取りによれば厳し過ぎる数値との意見もあるが、C-CADECの推奨によることとし、制気口は一般に設置台数が多いため、概ね50KB程度、最大100KB以下とした。

(3) 形状の詳細度
形状の詳細度を表現する概念としてLOD/Level Of Detailがあり、また、形状を含みより幅広い情報の詳細度を表現する概念としてLOD/Level Of Developmentがある6)。LODは数値で表現され、例えば、設計用途は300、施工用途は350、加工用途は400等とされている。しかし、規定内容は具体的ではない。

6) BIM FORUM: LEVEL OF DEVELOPMENT SPECIFICATION - For Building Information Models, 2013.8

本章では詳細度の目安を施工用途とした。その理由は、設計用途では形状は最大外形寸法による立方体程度でも足りることもあるため敢えて取り組む意味が少ないこと、また、加工用途はまだ一般的でないためである。施工用途の詳細度は、例えば、建築と設備の合意形成や干渉確認に利用できる程度とした。具体的な表現ではないが、設備CADソフトが持つ部材の詳細度と同程度とした。

(4) 形状の表現方法
第2章で述べた角ダクト直管と同様に、形状の表現は平面によることが妥当と考えた。この理由は、簡易な図形要素であるため、直感的であり部材を構成しやすいこと、また、多くのソフトでの読込が期待できることである。また、曲面は分割して平面に置き換えた。例えば、アネモ型吹出口(以降、アネモ)のうち丸型アネモ部材を図3.1に、平面による構成を図3.2に示す7)。
図3.1 丸型アネモ部材7)

7) 檜工業株式会社 : 製品カタログ

図3.2 丸型アネモ部材の場合の平面による構成
図3.1において、丸型アネモ部材は、多くの曲面を含んでいるが、図3.2においては、これを円筒部・円板部・円錐部に単純化し、それぞれを四角形の平面に分割している。
曲面を分割する際の分割数を増やせば、より曲面らしく見えるが、データ量が増える。そのため、分割数は8、16、32、64を選択可能とし、形状とデータ量を比較しながら決定することとした。

(5) 属性項目
属性項目は(社)IAI日本 設備・FM分科会が策定する「設備IFCデータ利用標準Ver1.1」によるものとした8)。

8) (社) IAI日本 設備・FM分科会: 設備IFCデータ利用標準Ver.1.1, 2013.12

ここに、設備IFCデータ利用標準は、IFCによるデータ交換の互換性を向上させるための、IFCによる設備部材の表現方法に関する合意である。IFCは標準形式ではあるものの、互換性は十分とはいえない。その理由は、IFCは表現の自由度が高い反面、表現が多様になりうること、また、属性値は一部しかコード化されていないためである。これを改善するには、関係者による利用上の合意が必要になる。設備IFCデータ利用標準は、そのような合意の一つである。
設備IFCデータ利用標準はプロパティセットの定義を含む。このプロパティセットはStemとBE-Bridgeを参考としており、端的に言えばStemとBE-Bridgeの意味をIFCで表現し直したものである。これにより、設備部材の属性を幅広く網羅している。
また、設備IFCデータ利用標準は、既に4種の設備CADソフトにおいて実装されており、今後は、より多くの設備CADソフトにおいて実装されることが予想される。そのため、3次元部材データを流通する際の汎用性も期待できる9)。

9) 三木秀樹: 設備IFCデータ利用標準の策定とその利用, (社)建築設備技術者協会 建築設備士, 第46巻, 第4号, PP.16-20, 2014.4

なお、設備IFCデータ利用標準の策定には、第2章2.4.2(7)に示したプロパティセットの定義も参考にされている。

3.4.2 部材データ作成ソフトの開発
(1) 部材データ作成ソフト
通常、3次元部材データの作成には3次元CADソフトの導入・習得が必要であるが、その負荷は小さくない。そこで、より簡便な作成手法を提供するため、3次元CADソフトを使用せずに3次元部材データを作成するソフトを、マイクロソフト社の表計算ソフトExcel2010上で実行できるVBAにより開発した。丸型アネモ部材の場合の入力画面を図3.3に示す。
図3.3 部材データ作成ソフト
図において、所定の属性項目について入力すれば、IFC形式のデータが作成される。属性項目は設備IFCデータ利用標準に定めるものだけでなく、形状の自由度を高めるための各部の寸法を追加している。また、例えば、排煙口においては、寸法を床面積を与えることにより計算する機能も付加している。なお、ソフト内でIFCを扱うミドルウェアであるIFCsvrコンポーネントを利用した(以降同じ)。

(2) IFCによる表現
IFCにより制気口を表現するには、クラスとしてIfcFlowTerminalが使用される。ただし、IfcFlowTerminalは流路の末端にあるもの全般に使用されるため、これには制気口だけでなく、例えば、水栓や電気のコンセント等も含まれる。そのため、制気口であることを明示するには、IfcFlowTerminal自体の属性「Name」「Description」「Tag」等を使用できる。本章では、例えば、丸型アネモ部材の場合は、属性「Name」に、値「Anemo」を設定した。これを図3.4に示す。なお、表示にはIFCsvr/TK TreeView注5)を利用した。

注5) 足達嘉信: Secom, IFCsvr/TK IFC TreeView Ver.3.2

図3.4 IfcFlowTerminal
しかし、この値は、関係者間で合意されたものではないため、人はともかくソフトが認識することを期待できない。なお、設備CADソフトは、設備IFCデータ利用標準の属性によって制気口であること、また、その種類を認識している。
IFCにより部材の形状を表現するには、IfcFlowTerminal自体の属性「Representation」に、値IfcProductDefinitionShapeを設定し、さらにその下位に具体的な形状を設定する。
形状の表現は平面によるものとしたが、IFCでは平面による表現方法も一つではない。互換性を向上させるため、(社)IAI日本 技術検討分科会が策定する「IFC MVD Concept 定義 (IFC2x3)」に従って、IfcFaceBasedSurfaceModel及びIfcConnectedFaceSet、IfcFace等を利用した10)。これを図3.5に示す。

10) (社) IAI日本 技術検討分科会: IFC MVD Concept定義(IFC2x3), 2012.11

図3.5 IfcFlowTerminalとIfcFaceBasedSurfaceModel
IFCにより部材の属性を表現するには、IfcPropertySet及びIfcPropertyが使用されるため、これにより属性を付加した。これを図3.6に示す。
なお、設備IFCデータ利用標準は、制気口の属性を設備一般、機器一般、個別機器の3種のIfcPropertySet に分けて記述している。
図3.6 IfcFlowTerminalとIfcPropertySet、IfcProperty
制気口はダクト接続点を持つ。IFCにより接続点を表現するにはIfcDistributionPortが使用されるため、これにより接続点を付加した。これを図3.7に示す。
図3.7 IfcFlowTerminalとIfcDistributionPort
IFCでは、建物を構成する建築部材や設備部材は通常、階や部屋に関連付けられる。しかし、建物に配置される以前の部材は、本来、これらへの関連付けは必要ない。ただし、設備CADソフトベンダーへの聞き取りによれば、階への関連付けがない部材を読み込むことができないことが分かった。そのため、本章でも、階、即ちIfcBuildingStoreyを付加した。これを図3.8に示す。
図3.8 IfcFlowTerminalとIfcBuildingStorey

3.5 開発結果と確認

(1) 形状の確認と分割数の決定
丸型アネモ部材の場合の分割数と形状を図3.9に示す。なお、表示にはDDS IFC Viewerを利用した。
分割数:8、データ量:24[KB] 分割数:16、データ量:42[KB]
分割数:32、データ量:78[KB] 分割数: 64、データ量:151[KB]
図3.9 丸型アネモ部材の場合の分割数と形状
図において、16分割の場合は、データ量が50KB以下で、かつ詳細度も妥当であることを確認できる。そのため、分割数は16分割とした。

(2) 属性の確認
丸型アネモ部材の場合の部材に付加された属性項目と属性値を図3.10に示す。
図3.10 作成した制気口部材の属性
図において、入力画面で入力した属性が正しく作成されていることを確認できる。

(3) 他のソフトでの読み込み
作成したデータが広範囲に流通しうるかどうかを確認するために、丸型アネモ部材を使用して、建築CADソフトや設備CADソフトによる読込・表示を行い、形状と属性を確認した。形状や属性が一致しない場合、IFCデータの構造や値の違いを調査・比較して修正を加えた。
建築CADソフトと設備CADソフトで読込・表示を行った結果を図3.11、3.12、3.13、3.14に示す。なお、IFCでは部材の色も表現できるが、本章では設定していない。図中の色は、各ソフトで設定されているものである。
図3.11 建築CAD注6)による読込・表示
注6) 福井コンピュータアーキテクト(株), GLOOBE 2014
図3.12 設備CAD注7)による読込・表示
注7) (株)ダイテック, CADWe'll Tfas 6
図3.13 設備CAD注8)による読込・表示
注8) (株)四電工, CADEWA Real 2013
図3.14 設備CAD注9)による読込・表示
注9) (株)NYKシステムズ, Rebro 2013

図3.11において、建築CADソフトでは、作成した部材と表示された部材の形状が一致していることを確認できる。
一方、図3.12、3.13、3.14において、設備CADソフトでは、形状に差異がある。この原因は、設備CADソフトは、読み込んだ部材が設備IFCデータ利用標準に準拠し、かつ自らが持つ部材と一致すると認識した場合に、置き換えを行うためである。データの誤りではなく、むしろ正しいことを示している。
以上により、作成したデータの形状と属性に誤りがないことを確認した。これにより、丸型アネモ部材を作成した手法が妥当であり、他の制気口へも適用しうると考えられた。

(4) 全制気口の作成
データ作成ソフトを使用して、設備IFCデータ利用標準で対象とされる各制気口の3次元部材データを作成した。形状とデータ量、面数、属性数を表3.1に示す。
表3.1 作成した制気口部材の形状とデータ量
部材名 形状 グリル(VH)
データ量 19.8[KB]
面数 47[個]
属性数 40[個]
アネモ(角型) グリル(多孔板)
23.7[KB] 179.0[KB]
56[個] 612[個]
38[個] 40[個]
アネモ(丸型) ガラリ
41.4[KB] 16.7[KB]
96[個] 35[個]
38[個] 40[個]
パン(角型) ベントキャップ
21.5[KB] 37.1[KB]
49[個] 80[個]
38[個] 41[個]
パン(丸型) ウェザーカバー
34.0[KB] 11.5[KB]
80[個] 16[個]
38[個] 40[個]
ブリーズライン フード(角接続口)
10.6[KB] 12.7[KB]
13[個] 20[個]
40[個] 42[個]
カームライン フード(丸接続口)
11.2[KB] 21.1[KB]
15[個] 48[個]
40[個] 42[個]
ノズル 排煙口
35.5[KB] 10.7[KB]
80[個] 13[個]
36[個] 40[個]
パンカルーバ 床吹出
49.9[KB] 37.4[KB]
112[個] 88[個]
38[個] 38[個]
表において、作成した部材の形状は、特に説明をせずとも部材を特定しうるものと考えられる。また、形状の詳細度は、設備CADソフトでの読込・表示の結果から、同程度と考えられる。むしろ、設備CADソフトはデータ量を抑制するために、詳細度を意図的に下げているように見られる。丸型アネモ部材の場合、整流板を表現していないのは、その一例と考えられる。
また、データ量はグリル(多孔板)のみが100KBを越えたが、他は全て50KB以下であることを確認できる。

3.6 考察

(1)形状の見直し
作成したデータのうちグリル(多孔板)のデータ量が100KBを越えたため、多孔板部分の平面による構成方法を見直した。平面の重なりを許容することにより平面数がより少なく、また、グリル(VH)とも識別し易い表現とした。これを図3.15に示す。
図3.15 平面による構成の見直し
図において、平面数が減っても、千鳥状の開口の表現が維持されていることが分かる。なお、この例では、開口率は同じではないが、平面の幅を調整することにより、同じにすることもできる。
見直し後の形状とデータ量を表3.2に示す。
表3.2 グリル(多孔板)の変更後の形状とデータ量
部材名 形状     グリル(多孔板)
データ量 26.5[KB]
面数 62[個]
属性数 40[個]
表において、外観はやや変わったが、面数を大幅(この例では約1/10)に削減でき、データ量を50KB以下にできたことを確認できる。
なお、例えば、多孔板や網のような細かな形状を表現する場合は、テクスチャ(物体の表面の質感や模様)を使用することも考えられる。IFCはテクスチャを扱うこともできる。ただし、仕様の決定の際に明確にする必要がある。

(2)データ量の推定
表3.1における各制気口のデータ量の差は、面の数や座標値の桁数、及び属性の数や項目と値の文字数の差によるものと考えられる。そこで、データ量を目的変数、面数及び属性数を説明変数として重回帰分析を行い、これらの間の関係を求めた。これを式3.1に示す。
式3.1 部材のデータ量、面数、属性数の関係
データ量[KB]≒0.481+0.386×面数[個]+0.092×属性数[個]
また、より実用的に暗算も可能となるよう、係数等の値を有効数字1桁に丸めたものを式3.2に示す。
式3.2 部材のデータ量、面数、属性数の関係(実用)
データ量[KB]≒0.5+0.4×面数[個]+0.1×属性数[個]
式3.1及び3.2により、各制気口の推定データ量を求め、実際のデータ量と比較した。これを表3.3に示す。
表3.3 部材のデータ量の予測
部材名 データ量
[KB]
式1による
データ量
[KB]
式1による
誤差
[%]
式2による
データ量
[KB]
式2による
誤差
[%]
アネモ(角型) 23.7 25.6 +8 26.7 +13
アネモ(丸型) 41.4 41.0 -1 42.7 +3
パン(角型) 21.5 22.9 +6 23.9 +11
パン(丸型) 34.0 34.9 +3 36.3 +7
ブリーズライン 10.6 9.2 -13 9.7 -8
カームライン 11.2 10.0 -11 10.5 -6
ノズル 35.5 34.7 -2 36.1 +2
パンカルーバ 49.9 47.2 -5 49.1 -2
グリル(VH) 19.8 22.3 +13 23.3 +18
グリル(多孔板) 26.5 28.1 +6 29.3 +11
ガラリ 16.7 17.7 +6 18.5 +11
ベントキャップ 37.1 35.1 -5 36.6 -1
ウェザーカバー 11.5 10.3 -10 10.9 -5
フード(角接続口) 12.7 12.1 -5 12.7 0
フード(丸接続口) 21.1 22.9 +8 23.9 +13
排煙口 10.7 9.2 -14 9.7 -9
床吹出 37.4 37.9 +1 39.5 +6
表において、式3.1の誤差は-13〜+14%、式3.2では-9〜+18である。推定時には誤差を考慮する必要があるが、式3.1及び式3.2により、データを作成する前におおまかなデータ量を推定することが可能になる。トレードオフの関係にあるデータ量と詳細度(面数)及び属性数を把握できれば、仕様の決定をスムースに進めることが期待できる。

(3)他の機器部材への適用
本章では対象を制気口としたが、作成手法は制気口のみに限定されるものではなく、空調機器全般に共通するものであるため、例えば、エアコンのような、より大型の機器部材にも適用できる。
ただし、大型の機器部材を対象とする場合は、
形状がより複雑になるため平面による構成もより複雑になることが多いこと
表現すべき属性が多くなるため属性数が増えることが多いこと
接続点がダクトの他に配管や配線等も加わるため接続点数が増えること
IFCのクラスを適切なものとすること
等を考慮する必要がある。
例えば、エアコンの天井隠蔽カセット型室内機へ適用した例を図3.16に示す。エアコンのIFCのクラスは、設備IFCデータ利用標準に定義される「空調機」に該当するとして、IfcEnergyConversionDeviceとした。
データ量: 30.3[KB]、面数: 83[個]
図3.16天井隠蔽カセット型室内機への適用例
図において、パネルの吹出口や吸込口は表現されているが、内部は表現されていない。また、配管の接続部や属性も表現されていない。
もし、接続部を円筒で表現すれば、円分割数が16であるため、接続部が1箇所増えれば、面数が16増える。冷媒管の往・返及び排水管の接続部を表現すれば、増加するデータ量は式3.2から16×3×0.4=19.2KBと推定される。また、属性を50個付加すれば、増加するデータ量は同じく50×0.1=5KBと推定される。両者を合わせると、全データ量は30.3+19.2+5=54.5KB、即ち50KB程度と推定され、目標とするデータ量に収まっていることが想定される。
同様に、室外機へ適用した例を図3.17に示す。
データ量: 114[KB]、面数: 319[個] データ量: 88[KB]、面数: 239[個]
図3.17 室外機への適用例
図において、天井隠蔽カセット型室内機と同様に、吹出口や吸込口は表現されているが、内部は極めて簡素にしか表現されていない。また、配管の接続部や属性も表現されていない。室外機は室内機に比べて形状の複雑さが増すため、データ量も増えることが分かる。
室外機においては、狭い場所へ設置する際に、吹出空気と吸込空気の短絡が問題とされ、気流計算用の3次元形状を持つ部材データが必要とされている。メーカーによる部材データの早期の提供が期待できない現状では、有力な利用方法となりうる。

3.7 まとめ

本章では、メーカーによる3次元部材データの提供を促進するため、制気口を対象として、3次元部材データの作成手法の開発について述べた。
具体的には、
部材データの仕様の決定において明確にすべき事項、即ちデータ形式、データ容量、形状の詳細度、形状の表現方法、属性項目をあげ、それぞれの解釈を示した。
3次元CADソフトを使用せず、表計算ソフトを使用して部材データを簡便に作成できることを示した。
C-CADECが推奨するデータ量の範囲内でも施工用途での利用を想定した部材データを作成しうることを示した。
また、併せて、限られた条件のもとではあるが、面数と属性数からおおよそのデータ量を推定する手法や、機器部材へも応用できることを示した。
BIMのさらなる普及には、メーカーによる3次元データの提供が不可欠である。本章で示した成果を参考とすることにより、メーカーは3次元部材データの作成の負荷を減らしうる。その結果、メーカーによる部材データの提供が促進されれば、BIMにおける重要な課題である部材データの不足が改善されることにつながる。ひいては、建築設備分野のみならず、建築分野全体において、BIMの普及に寄与することが期待できる。
また、本章で示した成果を参考とすることにより、異なるメーカーでも、一律なルールに基づいた形状と属性を持つ部品を作成・提供できるようになれば、BIMデータに一貫性・普遍性が生まれ、建物の維持管理段階における活用にもつながる。 なお、本章は制気口を対象としたが、今後は、より多様な機器部材への適用を進めていくことが必要であると考える。さらに、本章で示した成果は機器部材に限定されるものではなく、例えば、建築部材のうち、工業製品であるサッシ等にも応用できる。